昨日の午後のことである。 長くお付き合いのある方が、ふらりと寺を訪ねて来られた。あいにく別の来客と応対していたため、玄関先で家族と二言三言かわし、そのまま帰られたという。後で様子を聞くと、胸の奥に重い石を抱えた話であった。
息子さんの病が、ここへ来て急に悪化したという。 医師からは「連休が明けるまでもつかどうか」と告げられたらしい。 人の命というものは、暦の区切りなど意に介さぬはずだが、こうして“連休”という世俗の節目が、まるで峠のように立ちはだかったのだ。
友人は一昨日も病室を訪ねたという。 帰り際、「また来るから」と声をかけたところ、息子さんは力ない声で「もう話せなくなるかも」と言ったそうだ。 その言葉は、病室の薄いカーテンを揺らす風のように静かで、しかし友人の胸には深く沈む重さを持っていたに違いない。
人の生死は、歴史の大きな流れの中では一滴の水にすぎぬように見えるが、その一滴は家族にとっては海よりも深い。
連休の賑わいの裏で、ひっそりと命の灯が揺れている。 かなえられないと分かっている願いを胸に抱えながら、静寂の中で手を合わすことしかすべがない。