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日記

夏は来ぬ

「卯の花のにおう垣根に──」と口ずさむ季節になった。  この唱歌は、かつての日本人が肌で覚えていた季節の移ろいを、まるで古い絵巻のように描き出している。

田植えが終わり、白い卯の花が咲き、ホトトギスが声を張る。そうした自然の宴は、本来ならば人の営みと歩調を合わせるように、気づかぬように、しかし確かに演じられていた。

ところが近年、どこかに狂いが始まっている。  田植えはとうに終わり、ホトトギスは早々と鳴きだしたというのに、肝心の卯の花はまだ蕾のままである。季節の歯車が、噛み合わなくなっているのだろう。

初夏を待つ間もなく、いきなり真夏が押し寄せ、酷暑日などという、かつての気象用語にはなかった言葉まで生まれた。

変化には順応するしかない──そう頭では理解していても、この暑さのただ中に立つと、唱歌にうたわれたような自然の豊かさが、遠い昔の物語のように思えてくる。

あの歌が描いた季節の風景は、もはや歴史の一頁になりつつあるのかもしれない。もはや、あの素朴で清らかな歌が生まれることは、もう難しいのではないか──ふと、そんな思いが胸をよぎる。

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