隣町は、かつて海の匂いとともに栄えた漁師町であった。港に並ぶ漁船は常に15艘ほどはあったろうか。朝まだき、船底を叩く波の音と、網を干す人々の声が入り混じり、町そのものが海とともに呼吸しているように見えたものだ。
しかし、海は人の都合など意に介さない。海水温の上昇、海流の変化──そうした自然の理(ことわり)が静かに、しかし確実にこの小さな港を変えていった。魚も貝も、海草までも姿を消し、漁船は今や5隻ほどにまで減った。後継ぎの若者もいない。港の静けさは、むしろ時代の移ろいをそのまま映している。
昨年までイカはほぼ釣れなかったとう。ところが今年になって急に釣れ始めているらしい。海がどのように変化したのだろう。なぜなのか誰にもわからない。
そんな話とともに、知人から、港で水揚げされたイカをいただいた。「とても甘いイカでしたよ」という一言に、海への感謝がこぼれていると思った。さっそく今夜はお刺身にしていただきます。