山寺の境内は、古来より人と自然とが、ほどよい距離で共存してきた空間である。 その均衡のなかへ、近ごろ妙な客が姿を見せるようになった。ハクビシンという、山里の夜道をひっそり歩くはずの小動物である。
この客人、どうやら本堂の縁側にまで上がり込み、置き土産をしていく。数日前、掃除に出た家人が黒々とした大量の糞を見つけ、匂いに閉口しながら片づけてくれた。
前日に近くで見かけた姿からは、とても想像のつかぬ量で、別の動物の仕業と思っていたほどである。
ところが一昨日、庭を散策する風流人のような足取りで、悠々と歩くハクビシンを見かけた。あの落とし物の主は、やはりこやつであったかと、妙に合点がいった。
人に害をなすわけでもなく、庭を荒らすでもない。追い払うほどの悪さはしないが、糞ばかりは困る。自然の生き物に腹を立てるのも野暮というものだが、こちらには人の暮らしがある。
山里の寺には、こうした「思いがけない隣人」が、時折ふらりと現れる。 それもまた、この土地が長く抱えてきた時間の一コマなのだと、思うことにしよう。