加齢につれ、ふとした拍子に、これまで当たり前と思っていた習慣が、ぽろぽろとこぼれ始めていることを感じる。髭を剃るという、男にとってはほとんど儀式のような所作も、そのひとつである。
かつての日常は、毎朝のように人と向き合い、言葉を交わし、礼を尽くすことであった。 その始まりとして、洗面所に立ち、顔を洗い、シックの五枚刃を手にして髭を整えることは、自然な身だしなみであった。 ところが一線を退き、人と対話する機会が減ると、あれほど自然だった習慣が、ぽろぽろと崩れはじめた。
人間とは不思議なもので、外界との関わりが薄れると、身の回りの小さな儀礼もまた、その役目を終えるものらしい。ところが、 髭を剃らない朝が続くと、どこか落ち着かない。
そこで思い立って、電気カミソリを買った。 洗面所に向かわずとも、気が向いたときに手に取ればよい。そう考えたのだ。
新しい機械を手にしたとき、私はそれを単なる便利さとしてではなく、人生の折り返しに差しかかった者の、ささやかな再出発のように感じたのである。