夕餉にいただいたカマスの塩焼きは、炊き立てのご飯が進んだ。それは、海の恵みがまだこの周囲に息づいていることを告げているようでもあった。
このカマスは、くださった方のお孫さんが磯で釣り上げたものだという。疑似餌を使い、磯から遠投して狙う一本釣りであるらしい。
聞けば、同行した釣り仲間たちをはるかにしのぐ60匹超の大漁であったという。「遠くへ投げる腕の差ですよ」と、祖父であるその方は、どこか誇らしげに語った。
竿をしならせ、海の向こうへと弧を描かせる技術は、単なる力業ではなく、長年の経験が生む「海との対話」といえそうだ。
思えば近年、このあたりでは磯釣りの話題をめっきり聞かなくなっていた。10年ほど前までは、キスやクロダイがよく釣れ、釣果の自慢話とともにお裾分けをいただくこともあった。それがいつしか途絶え、海の中が変わってしまったと誰もが口にするようになっていた。
こうしてカマスが戻り、今年はイカも釣れ始めているという。海というものは、人の思惑を超えて大きな呼吸をしているようだ。仏教は、それを「龍力不思議」と教えてくれている。